【スタッフインタビュー・前編】髙橋秀弥監督、森彬俊プロデューサー、河北壮平クリエイティブプロデューサー座談会
電祇平安京の真実や、ツキミヤ、安倍晴明の秘密が明らかとなり放送が佳境を迎える本作。そんな『陰陽廻天 Re:バース』の世界を産み出した主要スタッフ陣、原案・監督の髙橋秀弥さん、プロデューサーの森彬俊さん、クリエイティブプロデューサーの河北壮平さんにお話を伺いました。

――ヤンキー高校生・業平猛が、テクノロジーが高度に発達した〈電祇平安京〉に転移するところからはじまる『陰陽廻天 Re:バース』。小説家の佐藤悪糖さんがプロット原案、柴田勝家さんが世界観設定考証を担当したオリジナルアニメを、フジテレビさんと講談社さんが共同制作することになったきっかけは何だったのでしょう?
森 とにかくおもしろいオリジナルアニメをつくりたい、と思ったんです。ストーリーテリングのプロである講談社の文芸部門と、「ノイタミナ」や「+Ultra」といった枠を通じて、多くのアニメをプロデュースしてきた我々フジテレビが手を組めば、原作ありきのアニメが多く生み出されている今の流れにも対抗できる魅力のある作品を生み出せるのではないか、と。そこにデイヴィッドプロダクションを加えて、髙橋監督にご参加いただいたのも、「おもしろい」を一緒に追及していけるという信頼があったからこそです。
河北 出版社の文芸部門が法人著作のような形で自らアニメの原作者(原作社)となるケースは、おそらく日本初だと思います。日本が世界に誇る最強のコンテンツであるアニメーションを、各方面のプロフェッショナルを結集させてゼロからつくりあげたい。誰もがあっと驚き、夢中になれるオリジナルアニメをつくりたい、というのがプロジェクトのスタートでした。
髙橋 最初にお話をいただいたとき、「陰陽師」というモチーフだけは決まっていましたよね。
森 「陰陽師」はもはや定番ともいえるジャンルで、いろんな作品で描きつくされているのかもしれない。でも、だからこそ海外の方にもすんなり受け入れてもらえる、強度の高いIP(Intellectual Property=知的財産)ともいえます。そこに真正面から向き合って、どんな新しい物語が生み出せるのかを、挑戦してみたいと思いました。
髙橋 柴田さんから「世界蟲毒」――アニメの7話で明かされる世界観の根幹となる設定を提案されたとき、ぐっと心をつかまれましたね。森さんのおっしゃるとおり、夢枕獏先生の『陰陽師』を筆頭に陰陽師も安倍晴明も語りつくされているなか、人々を争わせることによって世界を成長させる「世界蟲毒」というシステムには、見たことも聞いたこともない新しさがありました。

河北 企画当初から「どんでん返し」はキーワードでした。「世界蟲毒」はそれを成り立たせる強力なアイディアでした。僕は他の媒体よりも小説が優れているのは、ストーリーや設定の精緻さや、伏線の張り方といった部分だと感じるんです。ハヤカワSFコンテストの出身だけあって、柴田勝家さんはSFジャンルに詳しく、民俗学にも精通している。企画段階から加わっていただくことで、世界観の奥行きが生まれるのではないかとお声がけしたのですが、大正解でした。さらに、ストーリーとキャラクターメイキングに特徴のある佐藤悪糖さんにご参加いただくことで、設定を最大限に生かし、次々に「リバース」する物語づくりができました。
――転移先の異世界で、猛は〈怨人(おに)〉と呼ばれる存在と戦いますが、憧れの女性・ツキミヤを守れないまま倒れ、タイムリープを繰り返す。それが実は「世界蟲毒」という儀式の一環だったと判明するまでの流れは、誰も予想できなかったと思います。
髙橋 まさかこんな「どんでん返し」を発明してくださるなんて、と柴田さんからお話を聞いたときは興奮しました。世界蟲毒という設定を「ネタばらし」に使うためにはいったいどういう展開が考えられるのか、悪糖さんに原案のプロットを考えていただき、その尖ったキャラクター性を含めて物語をアニメーションに落とし込むにはどうしたらいいのか、脚本の森ハヤシさんと大変な苦労を重ねました……。いやあ、揉めなかったのが不思議なくらい、重層的な作業を行いましたね。
森 全員が「こういう要素を加えたいです!」って無邪気に提案して、かなりの無茶ぶりを繰り返していたのにね(笑)。
河北 世界観設定をもとに、文芸担当として佐藤悪糖さんにストーリーを広げていただいたのですが、これ……果たしてまとまるんだろうか、という不安は常にありました。ですから、監督のお人柄と森ハヤシさんの力あってこそですよ。どんな声もすべて耳を傾けたうえでまとめてくださる。おかげで毎週の打ち合わせが楽しくてしかたがなかった。
森 猛をヤンキーキャラにしたのは、髙橋監督のアイディアでしたよね。おっしゃるとおり、物語の筋だけを追うとかなりハイエンドで複雑な設定のSFなのですが、わかりやすくまっすぐな猛のキャラクター性があるからこそ、視聴者も混乱せずに物語を追うことができているんじゃないでしょうか。

髙橋 命を落としてタイムリープを繰り返す、ということはつまり、物語で描かれるのは正真正銘の「殺し合い」なわけで、その暗さを払拭してくれる何かが必要だと思ったんです。安倍晴明には、やっぱりかっこいい存在であってほしいと全員が考えていましたから、腹に抱えているものがある彼と対比させて描きたい。迷いながら成長していく主人公も魅力的ではあるけれど、最初から己の美学が完成されている主人公も、見ていて心地いいものがある。ですから猛はブレのない正義感をもつキャラクターにしようと考えた結果、ヤンキーキャラはありなんじゃないかな、と。
河北 戦いに臨む際、猛が毎回「業平家家訓!」と叫ぶのがすごく好きなんですよね。猛の個性と各話のテーマ性が浮かび上がりますし、何より場面がグッと引き締まる。
髙橋 猛がどういう性格なのか、視聴者に伝えるためにあまり時間をかけないほうがいいとも思ったんですよ。タイムリープを繰り返すたびに、周囲との関係性がゼロにリセットされるから、いちいち自己紹介をしていては、物語がもたついてしまう。自分がどういう人間で、どういう意思を持ち戦っているのか、猛が出会うキャラクターにも視聴者にも瞬時にわかっていただけるよう、家訓を叫ばせることにしました。歌舞伎の見得のような気持ちよさが生まれるだろうし、何より、自分の考えていることや感情をまっすぐ表現できる人は、それだけで観ている人の心をつかむでしょうから。
森 ……というように、めちゃくちゃロジカルに物語を把握して、構成してくださっている監督が、少年マンガのような熱いテンションと躍動感で物語を演出しているのを見ると、若干、混乱しちゃうんですよね。こんなにも、作られる映像には有無を言わさず心をわしづかみにされる迫力があるのに、打ち合わせの時のご本人はいたって冷静だから!(笑)
髙橋 あはは(笑)。そんなふうに思ってくれていたんですね。

森 とくに1話で、一度はやられたと思っていた猛が、家訓を言いながら立ち上がり覚醒する場面……。絵と演出と音楽、すべてが効果的に組み合わさって、みんながいちばん好きな少年マンガの盛り上がりを演出してくれていて。「このアニメ、絶対におもしろいだろ!」って確信させてくれるシーンなので、まだ作品を知らない方には、ぜひ観てほしい。僕も、何度も観てしまうくらい、大好きなシーンです。