【スタッフインタビュー・後編】髙橋秀弥監督、森彬俊プロデューサー、河北壮平クリエイティブプロデューサー座談会

【前編:猛をヤンキーキャラにした理由とは?作品が出来上がるまでの経緯】
――前編で、監督から「人々を争わせることによって世界を成長させる」ことがこの作品のテーマの一つであるとお話がありました。そのシステムに立ち向かおうとする猛の姿は、現代社会を生きる人たちにも響くところがあるのでは。
河北 優れたエンタメはおのずと現代社会を映したものになることがある、と編集者として実感しています。今作の舞台は電祇平安京……平安京が千年続いた先の近未来という設定ですが、その世界の根幹である「世界蟲毒」というシステムは、我々の生きる現実世界を反映したものでもある。でも、それぞれ立場や考え方は違えど、誰もが平和に暮らせる理想郷を求めていることに変わりはない。少年マンガ的なバトル作品でありつつ、争うことが最終目的ではないのだというテーマもまた、ラストまで観ていただける人に届けばいいなと思っています。
髙橋 猛と安倍晴明、それからヒロインであるツキミヤの三人に、僕は誰もが抱いているであろう三つの感情をふりわけているんですよ。猛の正義感や彼が語る正論は、理想。誰もがそうあれたらいいのにと願いながら、なかなか貫くことのできないものを、彼には背負ってもらっています。押しつけがましくなく、それを描けるのがアニメだとも思いますしね。
森 ほどよくバカなんだけど、行動原理が明確で、実行力もある。底抜けに明るい彼のようなキャラクターは、暗澹たる気持ちにさせられることが多い今の時代だからこそ、求められる主人公像の一つですよね。

河北 カッコつけているわけではなく、自然体に生きているその姿が、人々の憧れや指針になる。主人公にはそんな「粋」な存在であってほしいと僕は願っているんです。そんな主人公像を生み出すことはなかなか難しいのですが、猛はその心意気で物語を引っ張っていってくれる。だからこそ視聴者は共感とともに彼に希望を託してくれるんじゃないでしょうか。
――そしてその姿が、暗いものを抱える安倍晴明との対比にもなっていくわけですね。
髙橋 そうですね。安倍晴明は、理想だけで現実は立ち行かないことを知ってしまった、中間管理職的な立場の人だと僕は思っていて。猛のようにまっすぐ感情をあらわにするだけでは、問題は解決しない。前に進むために、よりよい世界をつくるために、心を殺している彼の姿にもまた、共感する人はいるんじゃないでしょうか。そこに、これまで描かれてきたさまざまな安倍晴明像とは違う、新しさを感じていただけるんじゃないかとも。
河北 今作の安倍晴明は、これまでに描かれてきたどのイメージよりも、内側に謎を秘めているキャラクターです。彼の行動の裏にどんな思惑や葛藤があるのかが物語のカギであり、ただの「異世界転生モノ」のように見せかけながら実はSFであり、ミステリであり、「セカイ系」でもある今作の深みを表現してくれている。安倍晴明がどれほど魅力的に描かれるかで、今作の「おもしろさ」は変わってくると、プロットづくりのころから感じていました。

森 個人的に、偉人にはパブリックイメージを損なわないカッコよさを背負っていてほしいんですよ。新しさを生み出すために、情けない姿をさらすなど、イメージを裏切るような個性を付加するのは、あんまり好きじゃない。だから今作で描く安倍晴明も、敵か味方かはおいといて、観た人のだれもが「やっぱりカッコいいな」と思ってくれるようなキャラクターにしてほしい。そのうえで新しさを生み出してほしい。……という、無茶ぶりにもきちんと答えてくださった監督は、やっぱり素晴らしかったですね。
河北 「ワンクールのあいだに4つも5つもどんでん返しを仕掛けよう」というのも企画のスタート地点でしたから、大変でしたよね(笑)。
髙橋 みなさんからのアイディアはどれもおもしろくて、胸躍らされるものばかりだったんですが、あちこちから無茶ぶりが飛んでくるので、それを一つにまとめるのは大変でした(笑)。でも、ストーリーのアイディアは悪糖さんからいただいて、柴田さんの専門知識に助けられて世界観に整合性をもたせることで、物語を複雑に感じさせることなく躍動させることができたんじゃないかと思います。そしてツキミヤは……彼女にも「何か」あるとだけ今は言っておきます(笑)。
森 おそらく、かなりカリカチュアされたヒロイン像であろうと感じた方も多いだろうと思うのですが、そんなことはないですよと(笑)。最終的には、非常に強い意志をもった現代的な女性として描かれるということしか、今は言えないんですよね。個人的には9話の「ツキミヤでした」ってセリフにぜひ辿り着いてほしい。あそこ、大好きなんです。
――思わせぶりで、全然わかりませんが、ネタバレの範疇だってことはわかりました(笑)。
森 猛と一緒に、まずは安倍晴明を、そして次にツキミヤというキャラクターを追っていただき、それぞれの視点から描かれるおもしろさを味わっていただきたいと思っています。
河北 先日、最終話のアフレコ現場に立ち会ったとき、僕、あまりの素晴らしさに、つい泣いちゃったんですよ。そう言えば、そのとき音響監督の濱野高年さんが「やってることが劇場版なんだよなあ」と言ってくださったこともうれしすぎて。そうなんです、そういうことをやりたかったんですって、思いながら。
森 河北さんのおっしゃったように、最初からいくつもどんでん返しを仕込むことは決めていたのは、ただ視聴者を飽きさせないためではなく、予想を裏切られながら物語を追いかけることで、展開を通じて浮かび上がるキャラクターたちの感情やそれぞれが抱えているテーマみたいなものが効果的に伝わったらいいなと思ったからなんですよね。そのうえで、みなさんが「おもしろかった!」と心地よく観終えてくださったらいいなと。手前みそではありますが、そういう作品になったはずだという手ごたえを、僕は感じています。
髙橋 今回、3Dアクションにめちゃくちゃこだわっているんですよ。CafeGroupさんというチームと組ませていただいたことで、自分の狙いたかった演出をかなり正確に追及することができて、その象徴ともいえる5話をつくれたのが、すごくうれしかったんですよね。音についても作曲家の得田(真裕)さん、音響監督の濱野さん、音響効果の小山(恭正)さんの力が濃縮されたマリアージュをぜひ味わっていただきたい。そして、5話を境に、物語も真のおもしろさを発揮していくはずです。
森 今のところは、うまく騙されていただいておりますが(笑)。
河北 まだまだRe:バースはリバースしますので。
髙橋 視聴者のみなさんはぜひ、お楽しみに。引き続きご視聴いただければ幸いです。